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東証20年分をAIに食わせても「聖杯」は出なかった――投資家の検証結果が示す市場の本当の姿

Shiritomo編集部 @shiritomoAI_jp 2026年7月20日 更新
東証20年分をAIに食わせても「聖杯」は出なかった――投資家の検証結果が示す市場の本当の姿

「辛い」。
個人投資家の@syakkin3さんが投稿の冒頭に置いた一言です。
2日間、東証の20年分の株価データをAIに読み込ませ、fable5とcodexという2つのAIツールでトークン(AIが文章を生成するときに消費する処理単位)を大量に使い、勝率の高い売買パターン、いわゆる「聖杯」を探し続けた結果でした。
SNSでAI投資botや「必勝法」の情報を目にしたことがある人なら、この結末は他人事ではないはずです。
この記事では、何を検証してどんな結果が出たのか、そしてなぜ「効かない」という結論そのものに価値があるのかを整理します。

先に結論をまとめると:
– 61条件・約1900パターンを検証したが、買いで優位性のあるシグナルはほぼゼロだった
– 空売り(株を借りて先に売り、値下がり後に買い戻して差益を狙う手法)にはやや優位性が見えたが、銘柄を絞り込む力はなかった
– Xでの反応は「市場効率性仮説」を裏付ける同意が中心で、AIのハルシネーション(AIがもっともらしい誤情報を生成する現象)を懸念する声も出た

20年分のデータを吞み込んだAIが出した結論

@syakkin3さんが検証したのは、移動平均乖離(株価が移動平均線からどれだけ離れているかを示す指標)や出来高急増(取引量が普段より急に増える現象)など、テクニカル分析(過去の値動きや出来高からチャートパターンを読み取り、将来の値動きを予測しようとする分析手法)の代表的な条件です。
61種類の条件を組み合わせて約1900パターンを東証20年分のデータに当てはめたところ、明確な買いシグナルはほとんど見つからず、多くは「この状況では買うな」という回避シグナルとして機能していたといいます。
元の投稿はこちらです。

「当たり前のように語られる」手法が、実際に大量データで検証すると根拠を持たなかった――この落差が、多くの投資家の共感を呼んだ理由でしょう。
ただ、この結果だけでは「テクニカル分析は無意味」と単純に言い切れるのか、疑問も残ります。
そこで、背景にある考え方を確認してみました。

調べて分かったこと

そもそも「市場効率性仮説」とは何か?

@syakkin3さんの検証結果は、経済学でいう「市場効率性仮説(EMH:Efficient Market Hypothesis、株価にはすでに入手可能な情報がすべて織り込まれているとする考え方)」と重なります。
1970年代に経済学者ユージン・ファーマが提唱したこの仮説では、株価は常に公正な水準にあるため、過去の値動きのパターンだけを頼りに市場平均を上回り続けることは理論上できないとされています。
@syakkin3さんが投稿で「予想をはるかにこえて」市場が最適化されていたと書いたのは、まさにこの仮説を身をもって体感した形といえます。

引用ツイートの中で目立ったのが、ピーター・リンチ(伝説的なファンドマネージャー)の言葉を引用したこちらの反応です。

「優位性があったらみんなやっている」という指摘は、EMHの本質を一言で言い表しています。
誰もが使える情報から得られる利益は、すぐに他の参加者に模倣されて消えてしまうという発想です。

三尊天井や窓埋めは本当に「勘違い」なのか?

一方で、テクニカル分析のすべてが無意味だと断定するのは早計だという声もありました。
三尊天井(株価チャートに3つの山ができ、中央の山が最も高いパターン。
下落転換のサインとされる)について、こんな反論が寄せられています。

このユーザーは、三尊天井が「強含めば三角保合上放れになる」、つまり見方によっては上昇継続のサインにもなり得ると指摘し、テクニカル分析を全銘柄に浅く・長く適用するやり方そのものに無理があると述べています。
つまり、パターン自体が無価値なのではなく、「機械的に一律適用する」検証方法の限界が結果に表れた可能性も考えられます。

AIが「勘」に勝てなかったのはなぜか?

もうひとつ興味深いのが、検証の空売り側にはある程度の優位性が見えたものの、どの銘柄が下がるかまでは絞り込めなかったという点です。
@syakkin3さん自身、この結果を受けてこう続けています。

熟練投資家が口にする「雰囲気」や「運」が、実は言語化できない情報処理の結果ではないかという指摘です。
AIが大量データから統計的パターンを抽出する一方で、人間の経験知は数値化しづらい要素まで無意識に織り込んでいるのかもしれません。
これはAIの限界というより、人間の判断がどれだけ複雑な情報を圧縮しているかを示すエピソードとも読めます。
なお、AIによる分析結果には、実際には存在しないパターンを「それらしく」提示してしまうハルシネーションのリスクも常につきまとうため、鵜呑みにせず検証する姿勢自体は妥当だったといえるでしょう。

Shiritomo編集部の考察:「使えない」と証明することにも価値がある

今回の件で注目したいのは、@syakkin3さんが「AIで儲かる手法を見つけた」ではなく「AIで手法が効かないことを証明した」投稿にもかかわらず、1200件を超えるいいねを集めた点です。
SNSでは通常、成功談やポジティブな結論の方が拡散しやすいとされますが、今回は逆でした。
理由は、多くの投資家が薄々感じていた「テクニカル分析への違和感」を、大量データという客観的な形で裏付けてくれたからだと考えられます。
データ分析の世界では、仮説が棄却される結果(ネガティブな結果)を丁寧に共有することにも、実は大きな価値があります。
誤った通説が独り歩きするのを防ぎ、次に検証すべき方向を示してくれるからです。
AIを使った検証を発信する際は、「見つかった」話だけでなく「見つからなかった」プロセスも、読者の信頼を得る材料になり得るという教訓が読み取れます。

まとめ

東証20年分のデータをAIに解析させても、テクニカル分析だけで安定して勝てる「聖杯」は見つかりませんでした。
市場はすでに多くの参加者によって効率化されており、単純なパターン頼みでは優位性を持ちにくいという、市場効率性仮説そのものを裏付ける結果だったといえるでしょう。
とはいえ、この「効かない」という発見自体が、AIを使った大規模検証の意義を示す好例でもあります。

さらに深掘りしたい方へ

市場効率性仮説やテクニカル分析についてさらに詳しく知りたい方は、以下の解説記事も参考になります。